研究の一番の関心は、「理論的にあり得る言語とあり得ない言語の境界線は如何なるものか」というものです。現在、地球上には何千もの言語があるとされており、その多様性は驚くべきものと言えます。一方で、それだけの多様性に含まれない様な、「あり得ない」言語というものも考えることができるでしょう。では、この両者の間にある質的な違いはどの様なものでしょうか?その境界線は、一体どこにあるのでしょうか?あるいは、そんなものは無いのかもしれません。この疑問に対するアプローチの1つとして、現在私は、「言語の複雑さ」というテーマに取り組んでいます。
言語学において一般に、「全ての言語はその複雑性において優劣はない」という言説が受け入れられており、これは「言語の等複雑性」と呼ばれています。実際に、2つの言語を比較すると、ある領域の複雑性においては一方の複雑性が高かったとしても、別の領域において(まるで釣り合いを取るかのように)他方の複雑性の方が高くなっている、という現象が経験的に知られています。しかし、この言説の真偽は、実際には未検証のままであり、技術的な問題がクリアされ始めた20世紀終わり頃から、ようやく取り組まれ始めたテーマでもあります。このトピックを通して、理論的にあり得る言語は、その複雑さが有限の幅に収まっているのか、それともそのような幅は存在しないのか、情報理論や測度論を用いた数理モデル化を通して、上記のリサーチクエスチョンに取り組んでいます。